パズルと不定方程式 〜平面編〜
みなさんこんにちは。新年度いかがお過ごしでしょうか。年度が変わったときによく使う言葉に「新生活」というのがありますが、私にとっての新生活はまさにこのブログを始めた生活です。
最初の内容として書こうと思った記事はいくつかあるのですが、私が4月から入会したパズル懇話会の例会がちょうど一昨日あったので、今日はそこで発表したパズルを数学的に解説します。
こちらがその「台形パズル」です。最小単位をとしたときのピースの寸法は
こうなっています。ルートが登場するととたんに数学感が出ます(笑)
図のように、相似比の二つの長方形を同じ形で切り分けてできた6枚のピースで、一つの長方形を作るのが目的です。
ところで、平面のパズルと聞いたとき、もしかすると多くの方はジグソーパズルを思い浮かべるかもしれませんね。ジグソーパズルも形としては長方形を作るのが目的なので台形パズルと似ています。でも、この台形パズルのような「シルエットパズル」と呼ばれるタイプのパズルは、ジグソーパズルとは解き味が全然違うのです。
ジグソーパズルは、たとえば四隅のパーツを見つけた後、その隣に何がくるかは絵やピースの形から判断できます。四隅を決めて、辺のピースをつないでいき、中を埋める。少し言葉は悪いですが、そうやって時間の問題でジグソーパズルは完成します。
一方のシルエットパズルは、目的が「長方形を作る」だったとしても、まずどれを隅に置くべきかわからない。そして隅のピースを決めたとしても、その隣に何をどの向きで置くべきかわからない。場合の数が膨大で、試行錯誤だけでは解けないことが多いと思います。
そんなときに使うのが代数です。
たとえば、この台形パズルを解こうとして、図のようにまず一番大きなピースを左下の隅に置いたとします。
この次に、今置いたピースの相似形のピースを右隣に、このように置くと…
実はこれ、この時点で「詰み」なのです。パズルに慣れている方はもうお気づきでしょうか?
なぜこれではダメなのか。順を追って説明します。
まず、この6ピースを全て使って図形を作るということは、面積は必ずになります。
今は長方形を作りたいので、縦と横の長さをそれぞれとおくと
です。縦の長さは横の長さ以下、すなわちとしておきましょう。
ここで問題となるのが、やとしてどんな数を考えるかということ。もし整数だけを考えるのならの約数を考えればよく、「上での因数分解」をすることになりますが、今は違います。
そう、がいるのです。
の整数倍の長さの辺を使えるので、今は「上での因数分解」を考えるべきなのです。
まさに代数学。パズルを理詰めで考えようとしたときに数学が出てくるととても楽しいですね(個人の見解)。
さて、上での因数分解をするために、改めて
とおいて、方程式
を考えます。しかし困ったことに、上での因数分解と違って、この方程式には無数の解があるのです(ペル方程式に関する知識を用いて証明できます)。
それらの無数の解について議論するほうが数学的には有意義かもしれませんが、今はパズルに専念しましょう。何をするのかというと…
として考えます。今回の6つのピースには確かにが登場しますが、辺の長さを足し合わせて作れる長さは、「非負整数との非負整数倍との和」に限られます。やは作れないのです。
改めて問題を書くと、
変形すると
このようになります。もしここでだとするとの無理性に反するので
です(とは上一次独立と言っても良い)。
「」という条件が効いてきます。結局
となります。
のときは、のときはとなり不適ですので、あり得るのは
- (このとき)
- (このとき)
の2パターンですね。
これでようやく、前述の置き方がダメな理由を説明できます。すなわち、
長方形の一辺の長さとしてとの両方が登場するはずがない
のです。6ピース全部を考えると、
この図の赤の辺と青の辺を並べてはいけないことになります。
なお、一番大きなピースはどの向きで置いても幅が以上なので、最終的に以下の4通りまで絞れます。
この中で二つ、実際に長方形を作れる比率が存在します。
みなさんぜひ、厚紙などで作って遊んでみてください。また私は火曜日のみらいけん数学デーに毎回このパズルを持って行っているので、そのときに声をかけていただけると中の人が喜びます。
数学を使ってパズルを考えるのは本当に面白いです。実は一昨日私が発表したパズルはもう一つあるので、それについてもいずれ記事にしたいと思っています。
それでは今日はこの辺で。みなさん新生活を楽しんでください!